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大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)1391号 判決

被控訴人

平野信用組合

大阪銀行

理由

1、《証拠》を綜合すると、控訴人は自己の取引先である訴外永田実穂の求めにより、同人に金融を得させる目的をもつて、被控訴人主張の各金額、支払期日、支払地、支払場所、振出地を記載し、振出人欄に長尾友治の記名印およびその名下に同人の印章を押捺し、右振出人の肩書に自己の住所「大阪市城東区今福南二丁目二五番地」および自己の屋号「大阪部品製作所」と附記した、受取人および振出日白地の、被控訴人主張の約束手形六通を作成し、これを右永田に交付した事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

二、被控訴人は右各手形は控訴人が長尾友治名義をもつて振出した手形である旨主張するに対し、控訴人は右各手形の振出人は訴外中谷忠雄で控訴人は右手形の作成にあたつたにすぎないと主張するので審究する。

《証拠》を綜合すると、控訴人と訴外中谷は従兄弟の間柄で、昭和三〇年頃まで共同して自転車部品の製造業を営む三協製鋲株式会社を経営していたが、同会社は倒産し、その後各別に同営業をなし、中谷はその営業のため長尾友治名義を用いて株式会社大阪銀行今里支店と当座取引をしていたこと、中谷は昭和三二、三年頃右営業を廃止し、右銀行口座を利用しなくなり、不要となつた長尾友治の記名印およびその印章(丸印)を控訴人に預けたままにして、控訴人に右記名印および丸印を使用して長尾友治名義を用いて手形を振出し、右口座を利用することを承認していたこと、そこで控訴人は前記各手形振出まで数回長尾友治名義を用いて右口座を利用して決済していたこと、(控訴人は同手形を中谷において決済したものの如く主張しているが、かかる事実は認めえない。)、前記各手形も控訴人が前記のとおり永田実穂の求めにより同人に金融を得させるため、振出人の肩書に自己の住所および屋号を附記して前記長尾友治の記名印およびその印章を用いて長尾友治名義をもつて前記各手形を振出したものであること。

以上の諸事実が認められ、右認定に反する原審および当審における控訴人本人尋問の結果はたやすく信用することができない。もつとも《証拠》によると、控訴人が前記各手形を振出すにあたり中谷に了解を求めていることが認められるが、右は前記のとおり中谷の口座を利用して前記各手形を振出すのであるから、その了解を求めたものと認められるから、かかる事実があるからといつて控訴人が中谷の手形振出行為を代行したものと認めることはできず前認定を妨げる資料とすることはできない。

そして手形の振出人の署名又は記名捺印は手形行為者である特定人を表示する名称であることを要することはいうまでもないが、その名称はその人の氏名、商号に限らず、通称、芸名等特定人の表示であると認め得られれば足るものと解すべきである。前認定の事実によると、長尾友治なる名称は前記各手形振出の五、六年以前までは訴外中谷が銀行取引上その通称として用いていたものであるけれども、その後同人は自転車部品製造業を廃止するとともに、その名称を用いなくなり、控訴人にその名称を用いることを許容し、控訴人は前記各手形振出に至るまで数回右名称を用いて手形を振出しており、かつ右各手形には振出人の肩書に控訴人の住所および屋号を附記しているのであるから、右各手形の振出人長尾友治の記名捺印は控訴人を表示する名称と認め得ることは明らかである。

三、次に《証拠》を綜合すると、前記永田実穂は控訴人から前記各手形の振出交付を受け、振出日および受取人を被控訴人主張どおりに補充し、(原判決記載の手形番号(4)の手形については受取人川口秀治の白地裏書のある)右約束手形六通の割引を受けてこれを被控訴人に裏書譲渡し、被控訴人はその所持人となつたので、各満期に右各手形を支払場所に呈示して支払を求めたがその支払を拒絶せられた事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

四、そうすると、控訴人は被控訴人に対し本件手形金合計金七四五、二〇〇円および右各手形金に対する各満期から完済に至るまで手形法所定年六分の割合による利息を支払うべき義務があるから、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は正当である。

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